「実家、どうしよう」——親が亡くなって数ヶ月、そのまま時間だけが過ぎていく。
そう感じている方は、決して少なくありません。「思い出のある家を手放すのは忍びない」「いつか使えるかもしれない」「兄弟で話し合うのが面倒」——さまざまな理由で、空き家は放置されていきます。
ただ、放置し続けることは「決断を先送りしている」のではなく、「最もコストとリスクが高い選択をし続けている」状態です。固定資産税は毎年かかり、建物は老朽化し、場合によっては固定資産税が最大6倍になります。本記事では、相続した空き家の選択肢を整理し、それぞれの具体的な手順・費用・注意点を行政書士の視点から解説します。
- 「特定空き家」に指定されると住宅用地特例が外れ、固定資産税が最大6倍になる可能性がある
- 相続後3年以内の売却なら3,000万円特別控除が使える可能性がある(租税特別措置法第35条)
- 2023年4月〜相続土地国庫帰属制度が施行。条件次第で土地を国に帰属させる選択肢も
空き家を放置すると何が起きるか——3つのリスク
「しばらくそのままでいい」と思っていても、空き家は時間とともに問題が大きくなります。
① 固定資産税が最大6倍になる可能性
住宅が建っている土地には「住宅用地特例」が適用され、固定資産税が最大1/6に軽減されています。ところが、空き家が行政から「特定空き家」に指定されると、この特例が外れ、税額が最大6倍に跳ね上がる可能性があります(空き家等対策の推進に関する特別措置法)。
「特定空き家」とは、倒壊の危険性・衛生上有害な状態・景観の著しい悪化などの要件に該当する管理不全な空き家のことです。指定後は行政からの勧告・命令を経て、行政代執行(強制解体)まで進む可能性があります。解体費用は所有者に請求されます。
② 管理費用が毎年かかり続ける
| 費用項目 | 年間の目安 |
|---|---|
| 固定資産税・都市計画税 | 数万〜数十万円(評価額による) |
| 草刈り・清掃(年2〜4回) | 5〜20万円(業者委託) |
| 火災保険・地震保険 | 2〜10万円 |
| 外壁・屋根の修繕(数十年に一度) | 数十万〜数百万円 |
「管理しなければ」と思いながら遠方から通う交通費も加算されます。
③ 近隣トラブルと行政指導
雑草の繁茂・ゴミの不法投棄・害獣の巣になる——こういった問題が起きると近隣住民との関係が悪化します。市区町村から改善指導を受けることもあり、最終的には強制解体・費用請求という事態になりかねません。
相続した空き家の選択肢——4つの方向性
空き家の扱い方は大きく4つに分かれます。どれが正解かは、建物の状態・立地・家族の意向によって異なります。
① 売却する(最も一般的)
相続後3年以内(正確には「相続した年の翌年1月1日から3年目の年末まで」)に売却すれば、「被相続人の居住用財産に係る譲渡所得の特別控除」として最大3,000万円の控除が使える可能性があります(租税特別措置法第35条)。
①昭和56年5月31日以前に建築(旧耐震基準)
②相続開始直前まで被相続人が一人で居住していた
③売却価格が1億円以下
④相続後に賃貸・事業用に使用していない
⑤売却時に耐震基準を満たすか更地にする
→ 5条件をすべて満たす必要があります。適用可否は税理士に確認を。
② 賃貸・活用する
リノベーションして賃貸に出す・シェアハウス・民泊(旅館業法の届出要)など、継続収入を得る選択肢です。初期費用が100〜500万円以上かかることも多く、立地が悪いと入居者確保も難しいため、事前に不動産会社と収支シミュレーションを行うことが必要です。
③ 解体して更地で売却する
建物が老朽化している場合の選択肢です。解体費用の目安は木造住宅で1坪3〜5万円(30坪なら90〜150万円程度)。ただし更地にすると住宅用地特例が外れて固定資産税が上がる点、また買い手が見つかるまでコストが発生し続ける点に注意が必要です。
④ 国庫帰属制度で国に引き取ってもらう
2023年4月に施行された「相続土地国庫帰属制度」を利用すれば、一定の条件を満たす土地を国に帰属させることができます。対象は建物のない更地が基本で、境界が明確・汚染なしなどの要件があります。負担金は宅地で最低20万円から(面積により異なります)。
売却の流れ——実際に何をするか
「売却が良さそう」と思っても、具体的にどう動けばいいかわからない方が多いです。大まかな流れは以下の通りです。
STEP1:不動産会社に査定を依頼する(無料)
複数社(2〜3社)に査定を依頼し、市場価格を把握します。「売れない土地」と思っていても意外な価格がつくケースもあります。まず数字を知ることが判断の第一歩です。
STEP2:相続登記を完了させる
2024年4月から相続登記が義務化されました(不動産登記法第76条の2)。3年以内に登記しないと10万円以下の過料の対象になる可能性があります。売却前に名義変更を済ませておく必要があります。
STEP3:空き家特例の適用可否を税理士に確認する
要件を満たすかどうかは個別判断が必要です。「たぶん使えるだろう」で進めると、後で想定外の税金が発生するリスクがあります。売却を決める前に確認することをお勧めします。
STEP4:売買契約・引き渡し
不動産会社が仲介し、契約・決済・引き渡しを行います。仲介手数料は売買価格の3%+6万円+消費税が上限です。
よくある質問(FAQ)
できません。相続放棄は財産の全部を放棄するものです。空き家だけを除いて放棄することはできません。また相続放棄後も、次順位の相続人が現れるまで管理義務が残る場合があります(民法第940条)。
自治体が運営する「空き家バンク」(売買・賃貸のマッチングサービス)への登録を検討してください。農地に隣接している場合は農地転用許可を取得して売りやすくする方法もあります。それでも難しければ国庫帰属制度や専門業者への買取も選択肢になります。
確定申告で特例適用を申請します。耐震証明書または取壊し証明書・売買契約書・登記事項証明書などが必要です。適用要件は複雑なため、売却を決める前に税理士に確認することを強くお勧めします。
相続した不動産は共有状態になっていることが多く、全員の合意なしに売却や活用はできません。話し合いで合意できない場合は、家庭裁判所の調停・審判を利用することになります。早めに行政書士・弁護士に相談することをお勧めします。
相続が確定した年の翌年1月1日から固定資産税の納税義務者になります。相続登記が完了していなくても、実際の所有者として課税されます。
自分でできること・専門家に頼む場面
自分でできること
- 固定資産税の課税通知書で評価額・課税状況を確認する
- 不動産会社2〜3社に無料査定を依頼して市場価格を把握する
- 空き家バンクへの登録相談
専門家に頼む場面
| 状況 | 相談先 |
|---|---|
| 売却・賃貸の仲介 | 不動産会社 |
| 3,000万円特例の確認・申告 | 税理士 |
| 相続登記の手続き | 司法書士 |
| 国庫帰属制度の申請 | 行政書士・司法書士 |
| 兄弟間のトラブル | 弁護士・行政書士 |
まとめ——「放置」だけはしない
「実家を手放す」ことへの感情的なためらいは、誰にでもあります。家を売るということは、そこで過ごした時間を手放すような気持ちになるものです。
ただ、放置することで建物は傷み、税金はかかり続け、選択肢が狭まっていきます。決断を先送りするほど、将来の自分と家族への負担が増えます。
- 放置は最もリスクが高い選択。固定資産税6倍・管理費・行政代執行の可能性
- 売却は相続後3年以内なら3,000万円特別控除が使える可能性
- 活用・解体・国庫帰属など選択肢は複数ある
- 相続登記は2024年4月から義務化(3年以内・過料あり)
まずは不動産会社に査定を依頼し、「売るとしたらいくらか」という数字を把握することから始めてください。判断の材料が揃えば、次の一歩が見えてきます。
参考資料・一次ソース
行政書士/終活カウンセラー上級/成年後見制度アドバイザー/宅地建物取引士
相続・遺言・成年後見を専門とする行政書士。終活に関する相談を年間200件以上対応。「難しい制度を、生活に近い言葉で」をモットーに情報発信している。

