相続税申告を自分でやる方法【必要書類・期限・計算手順を行政書士が解説】

相続税の申告が必要かどうか、期限内に何をすればいいのか、不安に感じている方は多いのではないでしょうか。

申告期限は相続の開始を知った日から10ヶ月以内と定められています。この期限を過ぎると延滞税・加算税が発生するため、まず「申告が必要かどうか」を早めに確認することが肝心です。

本記事では、基礎控除の計算から申告書の作成・提出まで、5ステップの手順を行政書士の視点で解説します。税率表・計算例・必要書類のチェックリストもまとめていますので、申告前の確認にご活用ください。

目次

相続税申告とは?まず申告が必要かを確認する

相続税申告とは、被相続人(亡くなった方)から受け継いだ財産の価格が一定額を超える場合に、税務署へ申告書を提出し、税額を納付する手続きです。

基礎控除額の計算式は「3,000万円+600万円×法定相続人の数」です(相続税法第15条)。遺産の課税価格の合計がこの額以下であれば、原則として申告は不要です。

📊 基礎控除の計算例
法定相続人の構成 基礎控除額
配偶者のみ(1人) 3,600万円
配偶者+子1人(2人) 4,200万円
配偶者+子2人(3人) 4,800万円
子3人のみ(3人) 4,800万円

「基礎控除以下」でも申告が必要になるケースとは?

遺産総額が基礎控除以下でも、以下の特例・控除を使う場合は申告が必要です。税額がゼロでも申告書を提出することが適用の条件になっています。

申告が必要になる主なケース

  • 配偶者の税額軽減(配偶者控除)を適用する場合
  • 小規模宅地等の特例(自宅の土地の評価を最大80%減額)を使う場合
  • 農地の納税猶予を受ける場合
  • 生命保険金・死亡退職金の非課税枠(500万円×法定相続人数)を超える場合
  • 3年以内の生前贈与(暦年贈与)が加算されて基礎控除を超える場合

「税額ゼロだから申告しなくていい」という判断は危険です。特例を活用したい場合は必ず申告してください。

相続税の税率とは?計算例でわかりやすく解説

相続税は「法定相続分に応じた取得金額」に対して段階的に税率が変わる累進課税制度です。まず相続税の総額を法定相続分で計算し、その後に実際の取得割合で按分します。

相続税の税率表(2026年時点)はいくらか?

税率は最低10%から最高55%の8段階です(国税庁 No.4155)。

法定相続分に応ずる取得金額税率控除額
1,000万円以下10%
1,000万円超〜3,000万円以下15%50万円
3,000万円超〜5,000万円以下20%200万円
5,000万円超〜1億円以下30%700万円
1億円超〜2億円以下40%1,700万円
2億円超〜3億円以下45%2,700万円
3億円超〜6億円以下50%4,200万円
6億円超55%7,200万円
出典:国税庁 No.4155 相続税の税率

実際の計算例:遺産6,000万円・配偶者+子2人のケースはいくらか?

具体的な数字で流れを確認します。遺産総額6,000万円、法定相続人は配偶者・子A・子Bの3人というケースです。

【Step 1】基礎控除を計算
3,000万円 + 600万円 × 3人 = 4,800万円

【Step 2】課税遺産総額を算出
6,000万円 − 4,800万円 = 1,200万円(課税遺産総額)

【Step 3】法定相続分で按分して税額を計算
・配偶者(1/2):1,200万円 × 1/2 = 600万円 → 税率10% → 60万円
・子A(1/4):1,200万円 × 1/4 = 300万円 → 税率10% → 30万円
・子B(1/4):1,200万円 × 1/4 = 300万円 → 税率10% → 30万円

相続税の総額:120万円

【実際の納付額】
配偶者が1億6,000万円以下かつ法定相続分以内で相続する場合、配偶者の税額は軽減(ゼロになるケースも)されます。ただし申告は必要です。

🔍 この計算例のポイント

Step 3はあくまで「相続税の総額」を算出するための計算です。実際の納付税額は、Step 4で「実際の取得割合」で按分し、さらに各種控除を差し引いた金額になります。土地・株式・非上場株式が含まれると評価が複雑になるため、迷ったら税理士への相談を検討してください。

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相続税申告に必要な書類とは?チェックリスト完全版

書類の収集は申告作業の中で最も時間がかかる工程です。相続開始から早めに着手することをおすすめします。

全員が必要な書類はどれか?

  • 被相続人の戸籍謄本(出生から死亡まで一連のもの)
  • 相続人全員の戸籍謄本・住民票の写し
  • 遺産分割協議書(遺言書がない場合・相続人全員の実印付き)
  • 不動産の登記事項証明書・固定資産税評価証明書
  • 預貯金口座の残高証明書(死亡日時点のもの)
  • 有価証券の残高証明書・取引明細書(証券会社発行)
  • 相続税の申告書(国税庁HPからダウンロード可能
  • マイナンバーカードまたは通知カード(相続人全員分)

状況によって必要になる書類はどれか?

状況追加で必要な書類
遺言書がある場合(自筆証書)家庭裁判所の検認証明書
遺言書がある場合(公正証書)公正証書遺言の謄本
小規模宅地等の特例を使う場合相続人の住民票・居住証明など(要件による)
配偶者控除を使う場合戸籍謄本(申告書に添付)
債務・葬式費用がある場合借入金残高証明書・葬儀費用の領収書
生命保険金がある場合保険金支払明細書・保険証券
3年以内の贈与がある場合贈与税の申告書の写し・通帳

📋 法定相続情報証明制度で戸籍収集を効率化できる

相続税申告・銀行手続き・不動産登記を同時進行する場合、毎回大量の戸籍謄本を取り寄せる必要があります。法定相続情報証明制度(2018年4月〜)を活用すると、法務局が発行する「法定相続情報一覧図の写し」を複数部無料で取得でき、戸籍謄本の代わりとして各機関に提出できます。相続税申告書への添付も可能です(法務局|法定相続情報証明制度)。

相続税申告の手順とは?5ステップで解説

申告書の作成は複数のステップに分かれています。順番を守って進めることで、計算ミスや書類の取り忘れを防げます。

1 財産の洗い出し 不動産・預金・ 有価証券・保険 すべてリスト化 2 課税価格の計算 財産合計−債務 −葬式費用 −基礎控除 3 税額の計算 法定相続分で 仮配分して税率 適用→総額算出 4 申告書の作成 国税庁書式で 各控除を適用 書類一式を準備 5 提出・納付 税務署・郵送・ e-Tax(PC版) 10ヶ月以内に

①相続財産の全体を洗い出すにはどうすればよいか?

不動産・預貯金・有価証券・生命保険・自動車・貴金属など、すべての財産をリストアップします。プラスの財産だけでなく、借入金・未払い税金・葬式費用などの「マイナスの財産(債務)」も整理します。

財産の把握漏れは後の税務調査で問題になりやすい箇所です。預貯金は取引のあったすべての金融機関の残高証明書を取り寄せましょう。

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②課税価格はどうやって計算するか?

財産の合計額から債務・葬式費用を差し引いた金額が「課税価格の合計額」です。ここから基礎控除を引いた金額が「課税遺産総額」になります。

不動産は「路線価方式」または「倍率方式」で評価します。路線価は国税庁の路線価図・評価倍率表で確認できます。土地の評価は計算が複雑なため、自信がない場合は専門家への相談を検討してください。

③〜④法定相続分で税額を計算するとはどういうことか?

課税遺産総額を法定相続分の割合で仮配分し、各相続人に対して税率表を適用して税額を計算します。その合計が「相続税の総額」です。この総額を、実際の遺産取得割合で按分すると各自の税額が決まります。

⑤申告書の提出方法は何があるか?

申告書の提出方法は3種類あります。

  1. 税務署の窓口に持参:被相続人の住所地を管轄する税務署へ直接提出
  2. 郵送:信書便(書留等)で管轄税務署へ郵送
  3. e-Tax(電子申告):国税庁のe-Taxソフト(PCダウンロード版)を使って送信。ブラウザ版・スマートフォンでの申告には現時点で未対応

📌 e-Tax申告の注意点

相続税のe-Tax申告は、PCにインストールするe-Taxソフト(ダウンロード版)が必要です。所得税や贈与税で使えるWeb版(ブラウザ版)やスマートフォンには対応していません。マイナンバーカードと利用者識別番号も必要なため、事前に準備が必要です(国税庁|相続税e-Tax特設サイト)。

申告期限とペナルティとは?遅れると何が起きるか?

相続税の申告期限は「相続の開始があったことを知った日の翌日から10ヶ月以内」です(相続税法第27条)。期限が土日・祝日にあたる場合は翌営業日が期限となります。

⚠️ 期限を過ぎた場合に課されるペナルティ

状況 加算税率
税務調査の事前通知前に自主申告5%
事前通知後・調査前に申告10%(50万円超は15%)
税務調査後に申告・修正15%(50万円超は20%)
仮装・隠蔽(重加算税)40%

延滞税(年利)は納付期限から2ヶ月以内:年2.4%、2ヶ月超:年8.7%(2026年時点)が別途かかります。

自分で申告できるケース・税理士に頼むべきケースとは?

相続税の申告は自分で行うことが法律上可能です。ただし、財産の内容によって難易度が大きく異なります。自分で対応できるか、専門家に依頼すべきかの目安を整理します。

状況難易度推奨
財産が預貯金・上場株式のみ自分で可能
不動産(自宅のみ)あり路線価計算に要注意
小規模宅地等の特例を使う中〜高税理士に相談を推奨
不動産が複数・非上場株式あり税理士に依頼を推奨
名義預金・生前贈与の精算が必要税理士に依頼を推奨
相続人間で意見の相違がある弁護士・税理士と連携

税理士に依頼した場合の費用はいくら程度か?

税理士報酬は遺産総額の0.5〜1%程度が目安とされています。具体的には以下のとおりです。

遺産総額報酬の目安(税込)
〜4,000万円22〜33万円程度
〜6,000万円44〜55万円程度
〜1億円60〜80万円程度
〜2億円99〜110万円程度
税理士事務所によって異なります。土地・非上場株式がある場合は加算報酬がかかる場合があります。

📋 申告書は国税庁のHPから無料でダウンロードできます

申告書は国税庁の相続税申告書様式ページ(令和7年分)から入手できます。PDF版とe-Tax用データ形式の両方が用意されています。

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よくある質問

相続税の申告は税理士に頼まないとできないのか?

法律上、自分で申告書を作成・提出することは可能です。ただし、土地の評価や特例の適用は複雑なため、財産に不動産・非上場株式・名義預金が含まれる場合は専門家への相談をおすすめします。

遺産が基礎控除以下なら何もしなくていいのか?

原則として申告は不要です。ただし、配偶者の税額軽減・小規模宅地等の特例など「申告が要件となる控除・特例」を使う場合は、税額がゼロでも申告書の提出が必要です。手続きを省略して後から問題になるケースがあるため、特例を使う予定がある場合は必ず確認してください。

相続税申告と相続登記は別の手続きなのか?

別々の手続きです。相続税申告は被相続人の住所地を管轄する税務署、不動産の相続登記は管轄法務局でそれぞれ行います。相続登記には相続を知った日から3年以内という期限があります(2024年4月施行・義務化)。

申告後に財産の追加が発覚した場合はどうすればよいか?

申告後に財産の把握漏れが発覚した場合、「修正申告」を行う必要があります。修正申告は自主的に行うほど加算税率が低くなるため、気づいた時点で早めに対応することが大切です。税務調査で指摘された場合は高い税率が適用されます。

相続税の申告書はどこに提出するのか?

被相続人の死亡時の住所地を管轄する税務署に提出します(相続税法第62条)。提出先の税務署は国税庁の税務署所在地検索で確認できます。

まとめ

この記事のポイント

  • 申告が必要かは基礎控除(3,000万円+600万円×相続人数)と遺産総額を比較して判断する
  • 申告期限は相続開始を知った日から10ヶ月以内(相続税法第27条)
  • 税額がゼロでも「配偶者控除」「小規模宅地等の特例」を使う場合は申告が必要
  • 土地・非上場株式・名義預金がある場合は難易度が上がるため、税理士への相談を検討する
  • 法定相続情報証明制度を活用すると、複数手続きでの戸籍書類の準備が効率化できる

まずは基礎控除の計算で「申告が必要かどうか」を確認し、必要な場合は財産の洗い出しから早めに始めてください。複雑なケースは一人で抱え込まず、専門家に相談することも選択肢のひとつです。

参考資料・一次ソース

免責事項:本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別の法的・税務的助言を行うものではありません。具体的な手続きや判断については、税理士・行政書士等の専門家にご相談ください。掲載情報は執筆時点のものであり、法改正等により変更となる場合があります。
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この記事を書いた人

井上剛志のアバター 井上剛志 行政書士・終活カウンセラー上級

行政書士として相続・遺言・成年後見などの実務に従事し、終活分野の相談を多数対応。終活カウンセラー上級、成年後見制度アドバイザー、宅地建物取引士の資格を活かし、法的リスクへの備えや不動産整理まで総合的にカバーしています。親の介護と相続を経験したことから、実務知識と当事者視点をあわせた情報提供を重視。読者にとって「すぐに使える終活知識」をモットーに、わかりやすく丁寧な解説を行います。

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