親が亡くなった後、銀行口座の相続手続きは最初に直面する実務のひとつです。必要書類が多く、金融機関によって手順が異なるため「何から手をつければいいか」と戸惑う方も少なくありません。
本記事では、銀行の相続手続きに共通の必要書類、遺言書あり・なし別の書類の違い、メガバンク・ゆうちょ・地方銀行別の手順の違いを、行政書士の視点から整理します。複数口座がある場合の対処法も解説します。
- 銀行口座は死亡を知った時点で凍結される。解除には相続人全員の書類が必要
- 基本の必要書類は「戸籍謄本一式・遺産分割協議書・相続人全員の印鑑証明」の3点
- 手続き完了まで1〜2ヶ月程度かかるケースが多い
銀行の相続手続きとは何か?口座凍結と解除の仕組みを解説
銀行の相続手続きとは、故人が保有していた預金口座を相続人が正式に引き継ぐための手続きです。口座凍結・書類提出・払い戻しという流れで進みます。まずは凍結の仕組みを理解しておくと、全体がスムーズに見えてきます。
口座凍結はいつ、なぜ起きるのか?
口座凍結は、金融機関が口座名義人の死亡を知った時点で発生します。遺族からの連絡はもちろん、新聞の訃報欄や取引先からの情報によっても凍結されるケースがあります。
凍結の目的は「相続人の一人が勝手に預金を引き出すことを防ぎ、全員の権利を平等に守る」ことです。凍結後は相続手続きが完了するまで、原則として引き出し・振り込みができなくなります。
【補足】平成30年(2018年)民法改正(令和元年7月1日施行)で「仮払い制度」が新設されました(民法第909条の2)。相続人は家庭裁判所の判断なしに、口座残高×1/3×自身の法定相続分、かつ金融機関1行あたり上限150万円まで引き出せる可能性があります。緊急の生活費や葬儀費用に活用できます。
凍結解除の手続きは誰が行うのか?
凍結解除の手続きは、原則として相続人全員(または委任を受けた代表者)が書類を揃えて申請します。一人の相続人だけでは手続きできない仕組みになっており、全員の同意を証明する書類の提出が求められます。
手続きが完了すると、預金は払い戻し(解約)または名義変更によって相続人に引き継がれます。完了までの目安はおおむね2〜4週間から2ヶ月程度で、金融機関や書類の揃い具合によって異なります。

銀行の相続手続きに必要な共通書類は何か?
必要書類は「遺言書があるか・ないか」で大きく変わります。まず全体像を把握してから、自分のケースに合った書類を揃えていきましょう。
遺言書がない場合(遺産分割協議)に必要な書類は?
遺言書がない場合は、相続人全員で話し合い(遺産分割協議)を行い、その結果をまとめた「遺産分割協議書」を作成します。これに加えて以下の書類が必要です。
- 被相続人の戸籍謄本(出生〜死亡まで連続したもの)
- 相続人全員の戸籍謄本
- 遺産分割協議書(相続人全員の署名・実印押印)
- 相続人全員の印鑑証明書(発行から6ヶ月以内が一般的)
- 払い戻しを受ける相続人の本人確認書類
- 金融機関所定の相続届出書
- 被相続人名義の通帳・キャッシュカード(あれば)
遺言書がある場合に必要な書類は?
公正証書遺言または家庭裁判所の検認を受けた自筆証書遺言がある場合、遺産分割協議書は原則不要になり、手続きがスムーズに進むケースが多いです。
- 遺言書の写し(公正証書遺言または検認済みのもの)
- 被相続人の死亡が確認できる戸籍謄本または除籍謄本
- 遺言で財産を受ける方(受遺者)の本人確認書類・印鑑証明書
- 遺言執行者が指定されている場合は遺言執行者の印鑑証明書
- 金融機関所定の相続届出書
【注意】自筆証書遺言は、家庭裁判所での「検認」手続きが必要です(法務局保管制度を利用した場合を除く)。検認なしの遺言書をそのまま銀行に持参しても受け付けてもらえないため、事前に確認してください。
法定相続情報証明制度を使うと何が便利なのか?
複数の金融機関に口座がある場合に特に役立つのが「法定相続情報証明制度」です。法務局に申請すると「法定相続情報一覧図」が発行され、これ1枚で複数の金融機関の手続きを同時並行で進められます。
従来は戸籍謄本の原本を1機関ずつ順番に提出する必要がありましたが、この制度を使えば一覧図の写し(認証文付き)を各機関に同時提出できます。発行手数料は無料で、何部でも取得できます。
書類比較:遺言書あり・なしで何が変わるか
| 書類 | 遺言書なし(遺産分割協議) | 遺言書あり |
|---|---|---|
| 被相続人の戸籍謄本(出生〜死亡) | 必要 | 必要(死亡確認分のみでよい場合も) |
| 相続人全員の戸籍謄本 | 必要 | 原則不要(受遺者分のみ) |
| 遺産分割協議書 | 必要 | 不要 |
| 相続人全員の印鑑証明書 | 必要(6ヶ月以内) | 受遺者・遺言執行者分のみ |
| 遺言書 | 不要 | 必要(公正証書または検認済み) |
| 金融機関所定の相続届出書 | 必要 | 必要 |
| 法定相続情報一覧図(任意) | 提出可(戸籍謄本一式の代替) | 提出可(戸籍謄本の代替) |

主要金融機関別の手続き方法と必要書類はどう違うか?
金融機関ごとに手続きの流れ・窓口・独自書式が異なります。事前に確認しておくことで、二度手間を避けられます。
みずほ・三菱UFJ・三井住友のメガバンクの手続きはどうか?
3行ともに専用の「相続手続きセンター」を設置しており、電話またはウェブで相続の連絡・予約ができます。書類は郵送または窓口で提出します。
- みずほ銀行:「相続手続きセンター」へ電話連絡後、所定の「相続関係届書」を取り寄せ。戸籍謄本は法定相続情報一覧図で代替可。みずほ銀行が独自に16歳誕生日以降(※2022年4月の民法改正により成年年齢が18歳に引き下げられたため、最新の要件はみずほ銀行公式サイトでご確認ください)の連続した戸籍謄本を求める点に注意。
- 三菱UFJ銀行:「相続オフィス(0120-39-1034)」に連絡後、所定の書類が郵送される。来店は原則1〜2回。法定相続情報一覧図の利用で戸籍謄本の提出は原則不要。
- 三井住友銀行:「相続デスク」への電話または最寄り支店へ連絡後、相続届を取り寄せ。手続き完了まで2〜4週間程度が一般的。
ゆうちょ銀行の相続手続きの方法は?
ゆうちょ銀行は独自の「相続確認票」を使うフローが特徴です。最寄りの郵便局または貯金事務センターに連絡後、確認票を受け取り記入・提出します。その後、貯金事務センターから郵送で必要書類の案内が届きます。
ゆうちょ銀行は「相続Web案内サービス」も提供しており、Webで回答すると必要書類を自動案内してくれます。複数の郵便貯金がある場合も、窓口1回の来店で対応できるケースがあります。
【補足】ゆうちょ銀行の手続きは、旧「郵便貯金」と新「ゆうちょ銀行預金」で書類が異なる場合があります。古い通帳が見つかった際は必ず貯金事務センターに確認しましょう。
地方銀行・信用金庫の手続きで注意すべき点は?
地方銀行・信用金庫は、原則として取引のある支店窓口が手続き窓口になります。専用センターがないため、まず電話で担当者に確認するのが最善です。
来店回数は2〜3回になることが多く、書類の書式も各金融機関ごとに異なります。手続きをスムーズに進めるために、最初の電話時に「必要書類リスト」を発行してもらうよう依頼すると安心です。
ネット銀行(楽天・住信SBIネット等)の相続手続きはどうか?
ネット銀行は物理的な窓口がないため、電話で相続の連絡をした後、書類をすべて郵送でやり取りする形が基本です。来店不要ですが、書類のやり取りに時間がかかる点を念頭に置いてください。
- 楽天銀行:カスタマーセンターに電話後、「相続手続き依頼書」が郵送されてくる。必要書類も郵送で提出。
- 住信SBIネット銀行:紛失・盗難受付窓口に電話で連絡。書類はすべて郵送対応。
- 共通の注意点:ログイン情報(IDやパスワード)が不明な場合でも、口座番号や通帳があれば手続き可能。口座の存在自体が不明な場合は各ネット銀行に問い合わせを。
【注意】ネット銀行の口座は通帳がなく、スマートフォンのアプリでのみ確認できるケースがあります。故人のスマートフォンやメール履歴から口座の存在を確認しておくと、見落としを防げます。
金融機関別:手続き方法の比較表
| 金融機関 | 手続き窓口 | 予約・連絡方法 | 書類提出方法 | 所要日数の目安 |
|---|---|---|---|---|
| みずほ銀行 | 相続手続きセンター | 電話・Web | 窓口または郵送 | 2〜4週間程度 |
| 三菱UFJ銀行 | 相続オフィス | 電話 | 窓口または郵送 | 2〜4週間程度 |
| 三井住友銀行 | 相続デスク | 電話・最寄り支店 | 窓口または郵送 | 2〜4週間程度 |
| ゆうちょ銀行 | 最寄りの郵便局 | 窓口・Web案内サービス | 窓口または郵送 | 1〜2ヶ月程度 |
| 地方銀行・信金 | 取引支店窓口 | 電話(要事前確認) | 窓口(原則) | 1〜2ヶ月程度 |
| 楽天銀行 | カスタマーセンター(電話) | 電話 | 郵送のみ | 1〜2ヶ月程度 |
| 住信SBIネット銀行 | 相続専用窓口(電話) | 電話 | 郵送のみ | 1〜2ヶ月程度 |

相続手続きを効率的に進める手順はどうすれば良いか?
手続きは複雑に見えますが、ステップに分けて順番に進めれば着実に前に進めます。特に「書類の先取り」と「金融機関への早期連絡」が全体のスピードを左右します。
STEP1:必要書類を事前に揃える方法は?
最も時間がかかるのが戸籍謄本の収集です。被相続人の出生から死亡まで連続した戸籍謄本は、本籍地が複数にわたる場合、各自治体への請求が必要です。取得に1〜3週間かかることもあるため、他の手続きと並行して早めに動き出すのが賢明です。
- 被相続人の本籍地の市区町村役場に戸籍謄本(除籍謄本)を請求する
- 転籍がある場合は転籍前の市区町村にも請求し、出生まで遡る
- 相続人全員の現在の戸籍謄本・印鑑証明書を取得する(発行後6ヶ月以内が有効)
- 法定相続情報一覧図の活用を検討する(複数口座がある場合は特に有効)
- 各金融機関に連絡し、所定の書類(相続届出書)を取り寄せる
STEP2:金融機関に連絡する正しいタイミングはいつか?
葬儀が終わり次第、できるだけ早く各金融機関に連絡するのが基本です。連絡と同時に口座が凍結され、必要書類のリストが送られてきます。葬儀費用の支払いが必要な場合は、仮払い制度(上限150万円)の利用を検討してください。
注意したいのは、相続税の申告が必要なケース(遺産総額が基礎控除額を超える場合)です。相続税の申告期限は相続開始を知った日から10ヶ月以内のため、税理士への相談も早めに行うのが安心です。
STEP3:複数口座がある場合、どの順番で進めるか?
複数の口座がある場合は、法定相続情報一覧図を取得してから各金融機関に同時申請するのが最も効率的です。一覧図がなければ、戸籍謄本を「原本還付」してもらいながら順番に提出していく方法で対応します。
- 法定相続情報一覧図を法務局で取得(無料・複数枚OK)
- 全金融機関のリストを作成し、一括して連絡・申請する
- 一覧図が取得できない場合は「原本還付」依頼で戸籍謄本を返却してもらいながら順番に提出
- 通帳が見当たらない口座は残高照会で存在確認できる

よくある質問(FAQ)
相続手続きに法的な期限はあるか?
銀行の相続手続き自体に法定の期限はありませんが、関連する手続きには期限があります。相続放棄・限定承認は3ヶ月以内、相続税申告は10ヶ月以内が原則です。銀行手続きはこれらの期限内に完了させるよう、余裕をもって進めることをおすすめします。
相続人が遠方で集まれない場合の対処法は?
遺産分割協議書は、郵送での署名・実印押印でも有効に成立します。相続人全員が集まる必要はありません。また、委任状を作成して代表者一人が手続きを進める方法もあります。金融機関によっては委任状の書式が指定されているため、事前に確認してください。
戸籍謄本はどこで取得できるか?
戸籍謄本は本籍地の市区町村役場で取得できます。取得方法は①窓口、②郵送請求、③マイナポータル経由のオンライン請求(対応自治体のみ)の3種類です。郵送の場合は1〜2週間かかることがあるため、早めに手配しましょう。
手続きに行政書士・司法書士に依頼すると費用はいくらかかるか?
銀行の相続手続きのみを行政書士に依頼する場合、3万〜10万円程度が一般的な相場です。不動産の相続登記を伴う場合は司法書士への依頼が必要で、6万〜15万円程度の報酬が目安になります。費用は遺産総額・手続きの複雑さ・事務所によって異なります。書類収集から手続き完了まで代行してもらえるため、時間的な余裕がない場合や相続人間の関係が複雑な場合は、専門家への依頼も十分選択肢に入ります。
銀行の相続手続きはオンラインで完結できるか?
現時点(2026年)では、ほとんどの金融機関でオンライン完結は難しい状況です。ネット銀行(楽天・住信SBIなど)は来店不要ですが、書類の郵送は必要です。メガバンクやゆうちょ銀行でも、相続届出書の取り寄せや書類確認のための来店が1〜2回は発生するのが一般的です。ただし各行ともデジタル化を進めており、今後の対応拡充が期待されます。
【補足】ゆうちょ銀行の「相続Web案内サービス」を活用すれば、必要書類の確認はWeb上で完結できます。ただし書類提出は窓口または郵送が必要です。
まとめ
【この記事のポイント】
・銀行口座は金融機関が死亡を知った時点で凍結される。早めの連絡が重要
・必要書類は遺言書の有無によって大きく異なる。まず有無を確認するのが先決
・法定相続情報証明制度を活用すれば、複数金融機関の手続きを同時並行で進められる
・ネット銀行は来店不要だが、書類のやり取りは郵送が必要
・手続きが複雑な場合は行政書士・司法書士への依頼(3万〜15万円程度)も選択肢のひとつ
銀行の相続手続きは、書類が多く金融機関ごとに流れが異なるため、「何から始めればよいかわからない」という方が少なくありません。でも、ひとつひとつのステップを理解すれば、着実に進められます。もし手続きに不安を感じたり、複数の機関が絡んで複雑になりそうなときは、行政書士や司法書士に相談するのが安心への近道です。
参考資料・一次ソース
行政書士/終活カウンセラー上級/成年後見制度アドバイザー/宅地建物取引士
相続・不動産・終活分野の手続きを専門とする行政書士。おくりびとジャーナルにて制度・法律・費用に関する記事を執筆。
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